第1章 地球の謎に迫る(1)
1. 地球はいつ生まれたか?
2. 原始地球はこうして生まれた
3. 地球の海はいかに誕生したか?
4. 最初は一つの超大陸だったって本当?
5. 現在の五大陸はいかに形成されたか?
6. 地球の内部はどうなってる?
7. 重力は場所によって違うか?
8. 地球上の酸素は超大昔につくられた?!
9. 日付変更線はなぜ日付を分けるのか?
10.海の水はなぜしょっぱいのか?
1.地球はいつ生まれたか?
地球の年齢を知ることは古くて新しい問題だ。現在の定説では、四六億歳となっている。隕石の年齢を測定してわかった。
実は、私たちが地球誕生時の岩石にお目にかかるチャンスはほとんどない。地球誕生以来つづいている火山活動や地殻変動によって古い岩石は次々と姿を消していくからだ。
一方、隕石というのは、火星と木星の間の軌道を回る小惑星帯からはじき出された星のカケラが地球の軌道内に落下してくるものだが*、中には大気中で燃えつきることなく地上に届くものもある。
小惑星帯というのは、木星の大引力にはばまれて一人前の惑星になりそこねた小さな星々で、太陽系創成のとき以来、進化が停止している。だから、これらの星のカケラの年齢を調べれば、太陽系がいつごろできたかがわかるわけだ。それが四六億年前なのである。
太陽系(太陽および地球を含む全惑星)の形成期間は、四六億年にくらべれば非常に短かったと考えられている。そこで、太陽とその惑星とはほぼ同時期にできたとし、隕石として地球に落下してきた小惑星の年齢をもって太陽系の年齢としているのである。
では、その年齢はいかにして測定されたのか? それを知るには、放射性元素の知識が多少要る。
放射性元素とは、陽子の数と中性子の数がアンバランスな物質のことで、絶えず一定の速さで自然崩壊を起こして、別の元素に変わっていく。原子力発電に用いられるウランや、キュリー夫人の発見したラジウムなどがそれに当たる。
この放射性元素の崩壊する速さは元素によって決まっている。たとえばウランは崩壊によって鉛に変わるが、元の量の半分が鉛に変わる時間(半減期という)は何と四五億年である。これは太陽系の年齢とほぼ等しい。
このことから、ある岩石に残存する放射性元素の量と、その元素が崩壊して生じた元素の量とを比較すれば、その岩石がいつごろできたかがわかる。隕石の年齢もこの方法によって調べられた。
これでわかるように、隕石は太陽系誕生時のままの組成を今に残す貴重なタイムカプセルなのである。博物館などで見かけたら、想いを四六億年前に馳せらせて、とっくりと観察しよう。
* 隕石の大部分は小惑星帯起源と考えられているが、中には彗星、月、火星起源のものもあることがわかっている。
コンドライト隕石 ベスタ(小惑星の1つ)のかけら 火星からの隕石
2.原始地球はこうして生まれた
宇宙は数千億の銀河から成り立っている。個々の銀河は膨大な数の星々で構成され、星々の間にはガスやチリからなる星間ガスが漂っている。この星間ガスには寿命を終えた星の残骸も混じっている。
この星間ガスの密度の濃い部分に、何らかの加減でゆらぎが生ずることがある。渦のようなものと思えばいいだろう。これに周囲のガスやチリが吸い寄せられる。すると、中心部の密度はさらに大きくなって引力が増大し、ますます多くの物質が吸い寄せられる。吸い寄せられた物質どうしはすさまじい勢いでぶつかり合い、押し合いへし合いするので、塊の温度はどんどん上がっていき、ついには核融合が始まって光を放射し、星(恒星)となる。
ガスのほとんどは星に吸い寄せられるが、太陽くらいの質量をもち、ほどよく回転する星の場合は、一部のガスがとり残されて星のまわりを円盤状にぐるぐると回る。このガス円盤は、熱を放出してしだいに冷えていく。そして、ガス物質の間に働く引力によって収縮していく。ガス物質のうちの金属、岩石(ケイ酸)、水などは粒子状に固化していき、やがて合体し合い、数mから一〇kmくらいの大きさにまで成長する。これを「微惑星」という。
比較的大きな微惑星は、自分よりも小さな微惑星を吸収して、どんどん大きくなっていく。そして、とりわけ大きくなったものが惑星となった。地球もその一つだ。
成長途上の地球は、次々に落下してくる微惑星の衝突エネルギーによって火の玉状態となる。そして、微惑星に含まれる鉄やニッケルなどの重い物質は地球の中心に沈んでいき、軽い岩石質のものはマントルとなってそれを覆う形の層状の構造ができあがっていく。
微惑星に含まれる水や一酸化炭素、二酸化炭素、窒素などは地表の高温のためにガスとなって蒸発し、宇宙空間へと逃げ去る。やがて地球がある程度の大きさにまで成長すると、これらのガスは地球の引力に捕捉され、原始大気を形成する。
原始地球誕生のドラマは、ざっとこんなところである。なお、惑星の素となるガス円盤を有する星は、現在でもいくつか観測されており、今後それらの星は、太陽系のような惑星系になっていくと考えられている。
3.地球の海はいかに誕生したか?
人工衛星から青い地球を見てきた宇宙飛行士たち。日本人を含むこれらの人々の中には、宗教家になったり、都会を離れて農業に従事したりする人たちがいる。外から地球を眺めて、何かいうにいわれぬ不思議な体験をしてくるからだろうか。
地球が青いのはもちろん、海があるからだ。そして海のある惑星は、知られているかぎりでは地球だけである。これは、地球が信じがたいほどの偶然に恵まれていたことによる。灼熱の太陽からほどよい距離にあり、質量がそこそこに大きく、大陸が存在していたというのがそれだ。金星と火星はこれらの偶然に恵まれず、地球になりそこねた星たちである。
さて、地球に海ができたプロセスはこうだ。
原始地球が誕生したとき、微惑星に含まれる水、一酸化炭素、二酸化炭素、窒素などは蒸発して原始大気となった。原始地球のさらなる成長とともに原始大気は増えつづけ、やがて一〇〇気圧以上にもおよぶ厚い層となった。これが地表から逃げる熱を吸収(蓄熱)するため、ものすごい温室効果が現われ、地表は千数百度にまで熱せられた。微惑星の衝突によってもともと焼けただれていた地上の岩石は、この温室効果によってドロドロに溶けてしまい、マグマとなって地球全体を海のように覆った(マグマオーシャン)。
原始地球が現在の地球の大きさの八〇%ぐらいになったとき、微惑星はあらかた落下しつくして、その衝突頻度は大幅に減少した。それにともなって地表の温度も下がり始め、マグマの表面も少しずつ固化し始めた。やがて大気中の水蒸気が凝結して液化し、熱く煮えたぎりつつ地表に激しく降りそそいだ。原始の雨だ。
もうもうたる湯煙の中、地表に雨水が溜まりだす。雨は数億年も降りつづき、四〇億年前頃になってやっとやむ。地上に原始の大海原を残して・・・。原始の大気とは、いってみれば気化した海であった。
しかしこれで安心するのはまだ早かった。なぜなら過剰な温室効果そのものはいぜんとしてつづくからだ。このままだと海はいずれ蒸発して干上がってしまう。それを救ったのは、この数億年あとに誕生する大陸であった(本章の16参照)。
4.最初は一つの超大陸だったって本当?
本当だ。その超大陸が何度も分裂し、移動して今のような五大州からなる大陸となった。超大陸ができたあらましはこうだ。
地球に海ができ始めると、大気中の二酸化炭素は海に溶け込み始め、気圧もだんだん下がっていった。このため温室効果は弱まって温度はさらに低下し、大気も透明になった。
かつてはドロドロに溶けていたマグマも、この頃には表面がうっすらと固まり、地殻を形成している。海はこの地殻の上にのっている。陸地はまだ存在しない。
地殻の下の厚い層をマントルというが、このマントルを形成しているのは、まだ固まりきっていない高熱のマグマである。
マントルは、上部ほど冷えやすく、下部ほど熱がこもりやすい。このために、マントルでは対流が起きている。下部の熱い部分が膨張して軽くなり、上昇して熱を放出。冷えると収縮して重くなり、沈んでいって再び熱せられ、上昇するという循環運動だ。これが地球規模で行なわれている。
この対流のために、地殻もわずかずつ移動する。その間も、マントル表層部の冷却は進んで新たな地殻をつくるので地殻は厚くなっていく。地殻がとくに厚くなったところでは、マントルがその重さに耐えきれなくなり、地殻がマントルに沈み込む場面も出てくる。
このときに沈み込むのは、鉄分などを含んで重くなった玄武岩の部分で、軽い花崗岩部分は沈むことなくマントルの上に浮いたままである。このため、花崗岩部分はマントル対流にのせられて漂流をつづけ、ぶつかり合い、合体し合ってだんだん大きくなっていく。これが大陸の素となった。
大陸の素が大陸と呼びうるほどに成長して一人前の地殻となったのは38億年前頃だ。この地殻はさらに成長をつづけ、少なくとも二億五〇〇〇万年前頃には一つの超大陸となっていたと考えられている。この大陸を「パンゲア」と呼ぶ。
この頃は、湖沼から陸へあがった魚が両生類から爬虫類へと進化し、大発展をとげていた時期である。やがて爬虫類からは恐竜が現われ、彼らが我がもの顔に陸を闊歩するようになる二億年前頃、大陸は突如として分裂し、移動し始めるのである(次項参照)。
5.現在の五大陸はいかに形成されたか?
昔、ヒマラヤ山脈を登山していたある学者が、魚の化石を見つけた。彼は、太古には魚そっくりの鳥がいたに違いないと考えた。また別の学者は、これこそ大洪水の証しと考えて、ノアの方舟の話は本当だったと信じた。
この謎を解き明かすためには、超大陸「パンゲア」の分裂と移動の物語から始めねばならない。
パンゲアができ上がった頃、マントルはもう冷えて固まっていた。このマントルは、地殻から下二九〇〇kmの深さにまで及ぶ厚い層である。ちなみに、マントルのさらに下、地球の中心までの層を核(コア)という。
冷えて固まっているようでも、実際にはマントルには熱がこもっている。その熱源は、マントルに含まれている放射性物質の崩壊エネルギーだとされる。この熱を放出するために、マントルでは対流(前項参照)が起きている。硬い岩石からなるマントルも、地球規模では対流を起こしているのである。
マントル対流によって熱を放出しようとしても、マントルの上に陸地がのっていると放熱に時間がかかる。パンゲアなどという超大陸がのっている場合はなおさらだ。そのために、内にこもった熱エネルギーは暴発して、マントルにのっかっているパンゲアを引き裂くにいたった。このできごとは二億年前頃から始まり、さまざまな規模でパンゲアのあちこちを引き裂いた。
引き裂かれた大陸片どうしは互いに遠ざかり(本章の14参照)、あとには海が浸入する。引き裂かれて移動する大陸片どうしが衝突するケースもある。こんなことが延々とつづけられて、現在の五大州からなる大陸が形成されたのだ。これらの大陸のあるものは今でも年間数cmの割合で移動している。
冒頭の話題でとりあげたヒマラヤ山脈は、大陸片どうしの衝突の産物である。四〇〇〇万年前頃、南から北上してきたインド大陸がユーラシア大陸にぶつかった。ぶつかったあともユーラシアの大陸棚を押しつづけたので、大陸棚の上にある海の底がだんだんと盛り上がり、ついにはヒマラヤ山脈となったわけだ。
これらのことは、プレートテクトニクスという理論で説明されるが、それの詳細については本章の14、15を参照してほしい。
6.地球の内部はどうなってる?
地球はよく卵にたとえられる。卵の皮が地殻、白身がマントル、黄身が核だ。
地殻にはもちろん海底も含まれる。海底地殻の厚さは六〜七km、大陸地殻は二〇〜七〇kmといったところだ。海底地殻は鉄分を含む黒っぽくて重い玄武岩、大陸地殻は花崗岩などの白っぽくて軽い岩石でできている。
地殻の下のマントルは、深さ二九〇〇kmにまで及び、地球の全体積の八二%を占める。深さ六五〇kmのところを境に、上の部分を上部マントル、下の部分を下部マントルと呼ぶ。上部マントルを形成しているのは、かんらん石を主体とするかんらん岩だ。高密度の硬い岩石で、川原でよく見かける蛇紋岩などはその仲間だ。このかんらん岩が、深さ一〇〇〜二〇〇kmあたりでは半ば溶けている。この溶けている層をアセノスフェアといい、このアセノスフェアと地殻の間を占める硬い層をリソスフェアという。
さらにもぐって、二〇〇〜四〇〇kmあたりにまでくると、その超高圧のためにかんらん岩は結晶構造を変え、非常に重くなり、もはや溶融もしない。そして四〇〇〜六五〇kmあたりでは、もっと重い別の鉱物に分解してしまう。
下部マントルに入り込むと、ここはきわめて単調な世界である。もぐればもぐるほど熱くなり、とてつもない圧力になっていくが、地震はないし、溶けた鉱物もないし、鉱物が途中で劇的に重くなることもない。この状態が、深さ二九〇〇kmまで延々とつづく。
二九〇〇kmを過ぎるとついに核に達する。核は外核と内核に分かれる。外核ではドロドロに溶けた灼熱の鉄が対流を起こしている。この対流がコイルをながれる電流の役目をして一個の電磁石が形成され、磁気が生まれる。この磁気が地表にしみ出たものが地磁気である。この溶けた鉄の世界は深さ五一〇〇kmまでつづく。
五一〇〇kmから地球の中心六四〇〇kmまでが内核だ。地球のど真ん中である。月がすっぽり入るくらいの大きさだ。四〇〇万気圧、絶対温度七〇〇〇度という想像を絶する世界である。あまりの超高圧のために鉄は固化している。
これでわかるように、鉄というのは、地上の構造物を支えているだけでなく、地球の芯をも支えている。鉄には、いくら感謝しても感謝しすぎることはないのだ。
※図は地震学入門(http://www3.justnet.ne.jp/~m-nasuno/WELCOME.HTM)より引用
7.重力は場所によって違うか?
この問題に入る前に、重力がつねにそのまま引力であるとはかぎらないことを知っておこう。
地球上の物体には引力が働いていて、地球の中心に向かって引きつけられていることはご承知のとおりだ。が、この物体には地球の自転による遠心力も働いている。遠心力とは外へ飛び出そうとする力だから、地上の物体に作用する実質的な引力はほんの少しだけ小さくなり、方向も地球の中心をほんのわずかに向いていない。この実質的な引力のことを重力といっているのだ。
地球のまわりの軌道を運動している宇宙船の中は「無重力」だというが、真に無重力になるのは宇宙船の重心だけである。その一点だけは、地球からの引力と宇宙船の軌道運動による遠心力とがつり合う。その重心以外のところには、わずかながらの「微小重力」があるのである。
引力=重力ではないといっても、一般的には引力を指して重力といい、宇宙船内の微小重力を考慮することなく無重力というほうが多い。まあ、専門家ではないのだからそんなに神経質になることもないだろう。
さて、地上の物体に働く地球自転による遠心力は、赤道上がもっとも強いことはすぐにわかるだろう。しかも赤道上においては、遠心力と引力とはまったく正反対の向きになる。したがって、実質的な引力である重力は赤道上がもっとも小さくなる。また、地球の形は赤道部分が少しだけ膨らんだ形になっているので(後述)、その高さの分だけ赤道上は引力が減り、重力はさらに小さなものになる。
一方、北極と南極では地球自転による遠心力はゼロである。そのため、この両極に作用する重力は引力だけとなって、地球上ではもっとも重力が大きい。赤道上の重力との開きは〇・五%ほどだ。
遠心力以外の要因でも場所による重力の相違が出る。まず引力に違いが現われる高さである。地上から一m高くなるにつれ、約〇・〇〇〇〇三%だけ引力は小さくなる。また、地下に分布する物質の重さの相違や、地下構造の異常などによっても引力に違いが現われる。これを利用して、鉱物や石油の探鉱、地質構造の探査などが行なわれる。
地球の重力は人工衛星の軌道にも影響を与える。この影響度を調べることによって、全地球を覆うような重力測定も可能となった。この結果、赤道部分が半径にして約二〇kmほど伸び、さらに北極が一六m高く、南極が二七mへこんでいることがわかった。地球は西洋ナシみたいなかっこうをしているわけだ。
8.地球上の酸素は超大昔につくられた?!
ある試算によると、酸素の産みの親である植物が全滅したとしても、酸素がなくなるまでには一〇〇〇万年以上かかるそうだ。現在の量の半分になるのが四〇〇〜五〇〇万年後。呼吸不能になるのは現在の量の二〇分の一になるときだから、まあ当分は大丈夫ということだ。
これからすると、いま現在私たちが吸っている酸素の中には、うんと昔につくられた酸素も含まれていると考えられる。いや、それどころではない。そのほとんどが、遠い昔につくられたものかもしれないのだ。
もしあなたが、植物は二酸化炭素(炭酸ガス)を酸素に変える光合成だけを行ない、酸素を吸って二酸化炭素を出すこと、すなわち呼吸*はしていないと思っていたとしたら、それは間違いだ。植物だって生きるためには呼吸をする。植物にとっては光合成と呼吸とは裏返しの関係なのだ。光合成の勢いが強ければ、呼吸によって消費される酸素量を上回る量の酸素を放出し、呼吸によって放出される二酸化炭素を上回る量の二酸化炭素を吸収する。
光合成とはもともと、地球最初の生物である原始バクテリア(ラン藻類の先祖)が、自らの栄養分をつくり出すために発明したシステムだ(第4章の2参照)。そしてそれは原始の植物に受け継がれた。地球上に誕生したての原始バクテリアや原始植物は若くて大量だったから光合成は非常に盛んであり、また光合成を行わない酸素呼吸型の微生物や菌類も少なかったので、超大量の酸素を産出した。それが今でも地球に残っているわけだ。
さて現在の森林には、樹木だけではなく酸素呼吸型の微生物や菌類もたくさんいる。これらの微生物や菌類は酸素を吸い、同量の二酸化炭素を出している。この量が、樹木が放出する酸素の量と、吸収する二酸化炭素の量とつり合ってしまえば、こと酸素と二酸化炭素にかぎっては、森林はあってもなくてもよいことになる。
このことは、アメリカで行なわれたバイオスフェアU(宇宙での自給自足を試す実験)でも如実に示された。外気を絶った密閉実験棟で、人間八人と約四〇〇〇種類の動植物が生活を共にしたのだが、実験員に酸欠者が出た。酸素をぱくっていたのは土中の微生物だった。
森林に住む微生物や菌類は、森林が古くなるほど増える。森林が古びると朽ち木や降り積もる落葉が増大し、それが微生物や菌類の温床となるからだ。また若木も増えるかわりに老木も増えるから、全体としての光合成は思ったよりは強くない。したがって古い森林が、地球環境全体にとっての二酸化炭素の吸収源であり、かつ、酸素の産出源であるかどうかはかなり微妙である。地球の肺といわれるアマゾンや東南アジア、そしてアフリカの森林はとても古い。これが非常に気になるところだ。排出ガス規制の国際会議においても、これと同様な懸念が表明されている。
以上からわかるように、私たちがいま吸っている酸素のほとんどは、いまつくられているものではない。太古の大昔につくられた“ふるーい酸素”なのである。
* 呼吸とは、炭水化物などの栄養分を化学的に燃やすのに必要な酸素をとり入れることと、燃やしたあとに発生する二酸化炭素を放出することからなる営みである。生物は、この営みで生じる燃焼エネルギーを使って生きているが、植物の光合成とは、この燃焼に費やされる炭水化物をつくり出すシステムなのである。つまり、植物も酸素をとり入れて炭水化物を燃焼させ、二酸化炭素を放出しているのである。
9.日付変更線はなぜ日付を分けるのか?
地球を東西二等分に分ける場合、イギリスのロンドン郊外にあるグリニッジ天文台を通る経線を基準として東と西に分けている。東側を東半球、西側を西半球と呼ぶ。この経線を東西に地球の裏側まで伸ばしていくと、両者は太平洋のど真ん中でつながってそれぞれが地球を半周する円周線となる。グリニッジ天文台を通る経線の経度をゼロと定めているので、裏側の太平洋側で接する両経線の経度は東西それぞれが一八〇度となる。経線は子午線とも呼ばれる。
日付変更線は経度一八〇度の経線上にある。この線を東向きに越えるときは日付を一日遅らせ、西向きに越えるときは一日進ませる。このことを話のオチに使った有名な冒険小説が、ジュール・ベルヌの「八〇日間世界一周」だ。実際には八一日間かかっていた旅が、東回りだったせいで、帰り着いたイギリスでは八〇日間しかたっていず、賭に勝ったという話である。
さて、前置きはこのくらいにして本題に入るとしよう。頭の中に、この地球が北極上空から見て反時計回りに回っている情景を思い浮かべてほしい(地球儀が上から見て反時計回りに回転している情景と思えばよい)。太陽は地球の西側(地球儀の左側)にあるとしよう。
地球上の時刻は、太陽の正面に位置するときがつねに正午で、その反対側はつねに〇時である。たとえば、グリニッジ天文台が四月一日の正午のとき、その反対側の日付変更線上はちょうど〇時になる。そして東半球は午後、西半球は午前で、地球上のすべての地域が四月一日だ。この瞬間をすぎると、東半球は順繰りに〇時を迎えて四月二日になっていくが、西半球と日付変更線をまだ越えていない東半球は四月一日のままである。地球が自転するにつれて四月二日の範囲が広くなっていき、日付変更線が正午になると、世界中で四月二日と四月一日の範囲が同じになる。四月二日の範囲(午前)が東半球、四月一日の範囲(午後)が西半球だ。
さらに時がたつと四月一日の範囲はいっそう狭くなっていき、日付変更線が〇時になると地球上全体が四月二日になる。そしてこの一瞬だけは日付変更線は日付を分けない。しかし、この一瞬以外はつねに日付を分けている。このために、日付変更線を越境するときには、日付を遅らせたり、進めたりするわけだ。
このことは、日付変更線を境にして、その両側に住んでいる人たちの使っている日めくりが、一日ずれているということである。日付変更線をまたぐと、体の半分は今日、もう半分は明日(昨日)という妙なことになる。うまい具合に、日付変更線は太平洋のど真ん中の“海上”を通っているので、現実に混乱をきたしているのは、日付変更線上を往来する舟びとぐらいのものだ。
ところでこの日付変更線、実はまっすぐではない。島や陸は迂回するので曲がっている。たとえば、北ではロシアの東端やアリューシャン列島、南ではオセアニアの島々を迂回して曲がっている。陸上に日付の境ができると、何かと不便だからだ。
10.海の水はなぜしょっぱいのか?
海の水はしょっぱいのに、川の水はしょっぱくない。考えてみると不思議だが、そのワケは次のように考えられている。
地球に誕生したばかりの海(処女海)というのは、しょっぱくはなかった。この海には、今もそうであるように多くの川が流れ込んだ。
川の水は塩分は少ないが、炭酸化合物*は多い。この炭酸化合物が川の流れによって海にそそがれると、海に棲む生物はこの炭酸化合物の一種である炭酸カルシウムを摂取し、自分の骨格をつくる。その生物が死ぬと、骨格は海底に沈澱する。このように、炭酸化合物はどんどん消費されるが、川の水に含まれる塩分はほとんど生物によって使用されない。したがって、川の水が海にそそがれるたびに海の塩分濃度は上がっていく。
つまり海は、時とともにしょっぱくなってきたのである。ちなみに、現在の海水に含まれる全塩分を結晶化し、地球に敷きつめると、五〇mぐらいの厚さになるという。
実をいうと、海水に含まれる塩分量は、これまでに川によって運び込まれたと推定される塩分量よりもかなり多いことが最近の研究によってわかってきている。海洋を形成している海水には、地球内部から涌き上がってくる水蒸気の凝結したものも含まれていて、その水に含まれる塩分が、海水の塩分濃度をさらに押し上げているということだ。
ところで、陸地にある湖もしょっぱくなることがある。こうした湖の特徴は、水の流れ込む川はあっても、水の流れ出す川はないことだ。つまり処女海と同じ条件なので、時とともに塩分濃度が上昇するわけだ。さらに気候が乾燥していれば、蒸発が激しくなって塩分濃度はいっそう高くなる。有名な死海(イスラエル)やグレートソルトレイク(北米)などはその例である。水が完全に干上がってしまえば、その塩分は岩塩となる。
また、かつて海であったところが地殻の隆起によって陸にとり残され、それが干上がったあとに塩が残り、それが固まって岩塩になることもある。カスピ海やアラル海などの大湖は、まだ干上がっていない“かつての海”なのである。
人間が消費する塩の七〇%は岩塩である。日本では岩塩はほとんど産出されないから、ちょっと意外な気もするが、海水から塩を精製するのにくらべればずっと楽なのだから、当然といえば当然であろう。
* 炭素と酸素が結合した炭酸イオンと、他の元素のイオンとが結合した化合物。チューハイやウィスキーソーダでお馴染みの炭酸水(ソーダ)も、炭酸ガスイオンと水イオンからつくられた炭酸化合物だ。
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