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第3章 なんでも徹底比較「地球と惑星」(1)


1. 太陽の寿命はあとどれくらい?


2. 太陽も公転している?!

3. 月は地球のかけらって本当?

4. 月は地球からだんだん遠ざかっている?

5. 月は人工衛星か?

6. 月には、地球の二〇〇〇年分もの電力資源が眠っている!

7. 火星はなぜ赤い?

8. 火星の運河騒動はどうして起きたか?

9. 第二の地球「火星」に人類が降り立つ日

10.はたして火星に生物はいるか?


1.太陽の寿命はあとどれくらい?

 ズバリいって、太陽の寿命は一〇〇億年とされている。太陽系ができたのが四六億年前であるから、残りの寿命は五〇億年少々ということになる。まだまだ壮年期だ。
 太陽は、もっとも簡単な構造をもつ水素とヘリウムからなる星だ。太陽系の惑星すべてを引きつけるほどの強大な引力によって、太陽の中心に引きつけられる水素はとほうもない高温となり、核融合反応を起こす。これは、四つの水素原子が一つのヘリウムに変わる反応だ。このとき質量欠損が生じるが、欠損した分の質量はエネルギーに変わる。例のE=mc2である。太陽が放出するエネルギーとは、このエネルギーなのだ。
 核融合を起こしているのは、太陽の中心近くの水素原子だけである。この水素原子の数は、太陽全体の水素原子数の一〇分の一でしかない。太陽系誕生時点での太陽の全水素原子がすべてヘリウムに変わるのに要する時間は一〇〇〇億年と計算されるが、実際には、その一〇分の一の水素原子がヘリウムに変わるのであるから、それに要する時間は一〇〇億年。これが太陽の寿命ということになる。
 また、太陽が時間当たりどれだけの水素原子をエネルギーに変えているかを知り、その水素原子が太陽にあとどれくらい残っているかを知ることでも、太陽の残り寿命が計算できる。約七〇億年という数字が出るらしい。これと太陽系の年齢四六億年を加えると、太陽の寿命は一一六億年ということになる。
 太陽の寿命がつきるときには、どんな具合になってしまうのだろう。水素はなくなり、燃えカスのヘリウムだけになることはすぐ察しがつくであろう。それでも、核反応はヘリウムの芯の周囲にできた薄い殻のところでわずかに継続され、この反応が星の外側を押し上げるために星は膨れ上がる。膨れて体積が増していくと温度が下がっていくから赤い光を出すようになり、やがて赤色巨星と呼ばれる星となる。
 赤色巨星の膨張はつづいて、惑星を次々に飲み込んでいき、外側ではガス状となって宇宙空間に放散していく。中心に残されたヘリウム核は地球くらいの大きさにまで収縮して、高温・高密度の白色矮星*となる。白色矮星の温度はやがて下がり始め、それにともなって赤色を増していき、ついには冷えきって見えなくなる。これが太陽の末路だ。

* シリウスの伴星が最初に発見されたものとして有名。太陽の八倍以下の重量の星が、進化の最終段階を迎えた状態と考えられている。

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2.太陽も公転している?!

 この宇宙には静止している天体はない。天体とは、惑星、衛星、恒星などの星々はもとより、星雲や星団、銀河など、宇宙を構成するメンバーのすべてをさす。
 星の運動には自転と公転がある。自転の場合、その星固有の方向を向いた自転軸を中心に回転する。また公転の場合は、衛星だと惑星のまわりを、惑星だと恒星のまわりを周回する。そして恒星自身も、自分が属する銀河の中心のまわりを公転するのである。恒星にかぎらず銀河を構成するすべての天体は、銀河中心のまわりを猛スピードで回っているから、これはもう銀河の自転といったほうがいいだろう。
 太陽系ももちろん、銀河系の中を回っている。そのスピードはざっと秒速二五〇km。このハイスピードにもかかわらず、銀河系を一周するのに二億三〇〇〇万年もかかる。さらに、銀河系自身が毎秒六五〇kmくらいの猛スピードでどこかへ向かっているという(第2章の12参照)。
 私たちの住む地球は結局、一日一回自転をし、一年に一回太陽のまわりを公転し、さらに、太陽とともに二億三〇〇〇万年に一回銀河系を一周し、そしてさらに、銀河系とともに猛スピードでどこかへ向かって突き進んでいるのだ。
 話がずいぶん大きくなってしまった。ここで少しばかり現実に戻り、太陽系の全質量の九九・八%を占めるお天道様の秘密にちょっと迫ろう。
 太陽は銀河系内を公転しているが、実は自転も行なっている。その周期は、赤道部分が二五・四日、両極付近が三六日だ。太陽は固体ではないので、こうした差動回転が起こるのである。
 一時、太陽の黒点が株価に影響を与えるとか、地震の原因になるとかいわれたが、根拠が希薄なところから、最近はあまりいわれなくなった。ただし、気象にはある程度の影響力をもつようである。一七世紀に、ヨーロッパが異常に寒冷化したのは、太陽黒点の活動が非常に弱くなったからだといわれている。その当時のヨーロッパは、ペストが流行したり、魔女狩りが行なわれたり、石炭の実用化がなされたり、デカルトやパスカル、ニュートンなどの大天才が輩出するなど、中世からはまだ完全に脱却しきれてはいないものの、来たるべき産業革命へ向けた助走をも開始していた不思議な時期である。
 太陽からは風も吹いている。もちろん、私たちがいうところの風ではなく、水素の原子核と電子からなる風で、太陽風と呼ばれる。地球にも吹きつけるこの風は、電波障害を引き起こすかと思えば、美しい北極のオーロラを生じさせたりもする。

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3.月は地球のかけらって本当?

 月誕生のストーリーは、いちばん身近な星であるにもかかわらず、実はまだはっきりしていない。
 昔のある時期、信じられていたものに「太平洋起源説」というのがある。進化論で有名なチャールズ・ダーウィンの弟であるジョージ・ダーウィンが唱えた。地球ができたばかりの頃はまだ柔らかく、しかも自転周期がたったの五時間という猛スピードだったので、ついには地球がちぎれて月となり、ちぎれた跡が太平洋になったというものだ。しかし、地球の自転周期が五時間であったという証拠がなく、この説はいつしか立ち消えになった。
 これはいってみれば「分裂説」だが、「捕獲説」というのもある。太陽系のどこかで生まれた小天体が地球のそばを通ったときに、地球の引力に捕らえられて衛星になったとする説だ。これによれば、月と地球の組成は異なることになるが、今では両者の組成はほぼ同じということが判明している。
 また、月と地球は同じ重心のまわりを回る連星であるが、地球が成長するにつれて月が地球の引力にとり込まれ、地球の衛星になったという「兄弟説」もある。
 現在、もっとも有力なのは「ジャイアント・インパクト説」だ。地球の誕生後ほどなくして、火星サイズの小惑星が地球にぶつかり、両者から飛び散った物質が地球のまわりをぐるぐる回るようになった。これがやがて一つに合体し、月になったというものだ。

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4.月は地球からだんだん遠ざかっている?

 これは本当だ。今現在も年に約三・五cmの速さで地球から遠ざかっている。計算によると、四〇億年後には地球から五〇万kmぐらいのところを、四〇日間ぐらいの周期で公転するようになるという。ちなみに、現在での地球からの距離は三八万四四〇〇km、公転周期は二七日と七時間四三分だ。
 遠ざかりの原因は、地球の自転の遅れである。地球の自転が遅れると、地球に対する月の公転速度は相対的に大きくなる。このため、月の遠心力が増大して地球から遠ざかるのだ。
 では、なぜ地球の自転は遅れているのか。それは海の干満(第1章の11参照)が原因だ。とどまることなく生起しつづける海の干満によって大量の海水が移動しつづけ、それが海底をこするので地球の自転にブレーキがかかるのである。でも、月が地球から遠ざかれば、海の干満も弱まるから、地球の自転をさまたげるブレーキ効果も弱まるはずだ。ところが、月に及ぼされる地球からの引力も同時に弱まっているから、結果的に月の遠ざかりはつづく。
 海の干満は主に月の引力によって生ずるが、月にも地球の引力が作用しているのだから何らかの影響が見られるはずだ。それはその通りで、海の存在しない月には、海の干満の代わりに地震が起こる。なにしろ地球の質量は月の八一倍。この強い引力に引っ張られて、月の岩石はギシギシときしむ。これによって、月はほとんど揺れっぱなしのような状態になっている。月面基地建設にあたっては、地震対策も大きな課題となるであろう。

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5.月は人工衛星か?

 月にはまだまだ謎が多い。独断と偏見で月の七不思議を列挙してみよう。
 @衛星としては不自然に重い。
 Aいつも同じ月面を地球に向けている。
 B異常に堅い。
 Cクレーターが地球側に集中。
 D旗が揺れ、ホコリが舞い上がる。さびた鉄もあった。
 E二〇〇億年前にできた岩石が見つかった。
 F中が空洞?!
 まず@について。月は地球程度の規模の惑星がもつ衛星としては重すぎる。太陽系の衛星たちを重い順に並べ、それぞれの星の質量が母星の質量に占める割合を示すとこうなる。
 *木星のガニメデ:一万三〇〇〇分の一 *土星のタイタン:四〇〇〇分の一 *木星のカリスト:一万七〇〇〇分の一 *木星のイオ:二万二〇〇〇分の一 *地球の月:八一分の一
 月の割合が異常に大きいことがわかるだろう。
 次はAについて。これは、地球からは月の裏面を見ることはできないということでもある。月の公転周期と自転周期が完全に同じで同期しているというのがその理由だ。周期がなぜ一致するのかはすでに解明されている(第1章の11参照)。
 次はB〜Fについて。まず堅さだが、これはクレーター(隕石の落下した跡)の深さと広さの関係からわかるもので、地下に何かものすごく堅いものが埋まっていないかぎり、クレーターはもっとずっと深くなっていなければならないという。このクレーターが、地球側に集中しているのも奇妙である。
 さてお次は、大気がないはずの月面からアポロ11号が送ってよこしたメッセージである。「風速よし」「ホコリが舞い上がる」。思わず「エッ!」である。月面からはさびた鉄も持ち帰られている。
 アポロ計画の全体で持ち帰られた岩石の総量は三八二kgほどだが、これを年代測定したところ、四六億年前、七〇億年前、さらには二〇〇億年前にできたとされる岩石も混じっていたという。地球ができて四六億年、宇宙ができて一五〇億年とされているのに。どうやら測定のし方に問題があったらしい。
 月の中が空洞だというのは、月面で人工地震を起こしたときにわかった。金属を叩いたときのような地震波の伝わり方をしたのだ。これは、月が薄くて堅いものにくるまれていることを示唆する。空洞の星なんて、ほかにあるだろうか。月は、もしかしたら人工衛星?!

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6.月には、地球の二〇〇〇年分もの電力源が眠っている!

 月には「豊かの海」とか「静かの海」、「嵐の大洋」といった、海の名前のつけられた地域がある。もちろん、本物の海ではない。
 月ができた当初は隕石の落下が激しく、月面は溶けたマグマによって覆われていた。隕石の落下が減ってくると、マグマの表面は冷え固まって月の地殻となった。しかし、月のあちこちでは地下のマグマが噴出し、その溶岩流が窪地を埋めた。一方で、隕石の落下は各所にクレーターをつくった。こうして、いま見るような月ができ上がっていったという。
 太古の溶岩流の跡は、周囲にくらべると黒ずんで見える。それが海のように見えるので、冒頭にあげたような海の名前がつけられたわけだ。
 月の組成は地球のそれとほぼ同じであるが、それでも大きく異なるのは、地球には二〇〇〇種類以上もの鉱物が存在するのに、月にはせいぜい一〇〇種類ぐらいしかないことだ。また、アルミニウム、チタン、カルシウムなどは地球よりも多いが、鉄とかニッケルなどは少ない。
 こう書くと、月がエネルギー問題の救世主になれるなんて眉ツバめいてくるが、実はそうではない。
 月面にはヘリウム3が大量に存在しているのだ。ヘリウム3と重水素による核融合エネルギーの生産は、ほとんど放射能を出さないうえ、発電効率も高い。五〇〇トンのヘリウム3があれば、地球の一年分の電力をまかなえるともいわれる。
 ヘリウム3は、地球上には自然に存在しない。だが、大気がないために太陽風が数十億年にもわたって吹きつけた月面には、一〇〇万トンものヘリウム3が存在するという。単純計算では、地球の二〇〇〇年分もの電力源となる。月面の引力は地球の六分の一しかないから採取も楽だし、地球への輸送ロケットの打ち上げも容易だ。
 さて、こうした月資源の利用を推進していくうえで、解決されなければならないのが「月は誰のもの?」という問題だ。みにくくも熾烈な縄張り争いが、月にまで及ぶのだろうか。
 実は、国際的な条約や規定では、「月その他の天体を含む宇宙空間は、国家による取得の対象とはならない」とされているのだ。深海底の資源についても同様だ。最初に月面着陸をしたアメリカにも領土権はない。少しほっとする。

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7.火星はなぜ赤い?

 SF小説の素材としてとりあげられた最初の天体「火星」と、最初のE・Tである「火星人」。火星が赤いことや、その表面に運河のようなものが見えることなどが、古来より人々のイメージを刺激してきた。
 ギリシア、ローマ時代には、火星は血を連想させる赤色のために戦争の神アレス(ラテン語名はマルス)と名づけられた。また、さそり座の一等星アンタレスも火星同様に赤色に輝く星だが、この星の名前は火星の敵(アンチ・アレス)という意味で命名された。火星のラテン語名であるマルスは英名でマーチ、つまり三月のことだ。
 あのガリバー旅行記の天空の島「ラピュタ」の章には、ラピュタの天文学者の優秀性を物語る証拠として火星の話が出てくる。
 「彼らはまた火星の周囲を回転する二つの小星、すなわち衛星を発見しているが、その内側のものは主星の中心からその直径の三倍距離、外部のものは同じく五倍距離にあり、前者は一〇時間、後者は二一時間半の周期で回転している」(中野好夫訳)
 火星の二つの衛星が発見されたのは、一八七七年の火星大接近のときとされているが、ガリバー旅行記が出版されたのは、それよりも一五〇年も前の一七二六年である。もちろん当時、二個の衛星があることは知られていなかった。さらに驚くべきは、記述されている二つの衛星の距離と周期が実際とそんなに違わないことだ。
 さて、火星といえば運河騒動(次項参照)だが、これは一八七七年の火星大接近を契機にもち上がった。そして一九〇〇年代に入ったあとも、一九三八年には、オーソン・ウェルズ制作の火星人襲来のラジオドラマが全米にパニックを引き起こした。隕石の巣である小惑星とならび、人騒がせNO.1の惑星といえるだろう。
 火星が赤く見えるのは、表面が酸化鉄(鉄サビ)を含む砂で覆われているためである。この砂は火星表面の大半を占めているので、火星は赤い砂漠の星といえる。アメリカの有名なSF小説「砂の惑星」は、この火星がモデルだ。
 火星のような砂は、地球では熱帯のような高温多湿の条件でつくられる。このことから、太古の火星は現在の状況とは大いに異なり、もっと温暖・湿潤であったと考えられている。
 かつては地球であった星。それが火星だ。

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8.火星の運河騒動はどうして起きたか?

 火星の本格的な観測が始まったのは一六〇〇年代のなかば、天体望遠鏡が天文学者たちに普及し始めてからである。ホイヘンスの原理(光の反射、屈折、偏光に関する原理)で有名なホイヘンス(一六二九〜九五)も、自ら望遠鏡の改良にとり組み、火星をはじめとする太陽系の惑星の観測・研究を行なった。土星の輪の存在を明らかにしたのもこの人である。
 さて、火星の運河騒動の引き金となったのは、一八七七年の火星大接近である。この年、火星は地球へ五六〇〇万kmまで接近した。ミラノの天文台長ジョバンニ・スキャパレリは、そのチャンスをとらえて火星表面をスケッチした。それには細い筋が描き込まれていたが、彼自身はそれをカナリ(イタリア語で溝という意味)と呼んだ。
 ところが、このカナリに相当する英語「カナル」は、英語圏では運河という意味をもっていたために一騒動が持ち上がった。火星人を題材としたSF小説も数多く発表され、人々の好奇心はいやがうえにも高まった。
 この騒ぎを伝え聞いて、私財をなげうってアリゾナの砂漠に天文台を建て、火星観測を熱心に行なったのがボストンの大富豪であり外交官でもあったパーシバル・ローウェルである。彼は、暗い海と海とをつなぐ運河を数多く発見した。そして、今では死に絶えているが、太古の火星には、運河をつくるほどの高度な知能をもった火星人がいたに違いないと考えるようになった。
 一方、ヨーロッパでは、フランスのある天文学者がパリ郊外にある天文台で熱心に火星観測をつづけ、精密な火星図を描き上げた。この火星図は現在でも立派に通用するほど高精度なものだったが、そこには運河は描かれていなかった。その火星図を描いた学者は、運河の存在をきっぱりと否定した。
 かくして、アメリカとフランスの間で運河論争が活発に繰り広げられることになった。運河の有無はさておき、火星に生命が存在するかもしれないという点では両者は一致していた。
 この論争に最終的に終止符を打ったのは、一九六五年にアメリカが打ち上げた火星探査機マリナー4号が撮しとった火星写真だった。これには、かつて白熱の論争を呼んだ運河はなかった。ローウェルの死後、五五年目のことであった。

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9.第二の地球「火星」に人類が降り立つ日

 火星の地表には、極地域をのぞけば水はない。だから極低温(平均気温はマイナス五〇度)なのに凍てつくこともない。猛烈な砂嵐だけが吹きすさぶ、乾ききった星だ。そんな火星にも、かつては水のようなものが流れていたと考えられる河床地形が数多く存在する。その最大のものは、長さ四〇〇〇km、深さ二〇〇〇〜七〇〇〇mにも及ぶ大峡谷だ。バイキング以来、二一年ぶりに火星に降り立った火星探査機マーズ・パスファインダー(次項参照)も、かつて大洪水があったことを示す証拠をいくつも見つけている。きっと、太古の火星は温暖で水もあり、地球によく似た環境だったのであろう。
 火星には火山もある。火星最大の火山は太陽系でも最大の山嶺で、まわりの平原からの高さが二万四〇〇〇mもある。火口は富士山がすっぽり入る大きさだ。底部は直径五〇〇km以上あり、六〇〇〇mの高さの崖が山をとり囲んでいる。この山と崖を眼前にしたときにはきっと、自分が小人になったような錯覚におちいるだろう。
 火星にはある程度の太陽光線がとどくから、昼間はうす明るい。赤い砂の嵐で、空はピンク色だ。大気はほとんどが二酸化炭素で、酸素は全大気の〇・〇三%を占めるにすぎない。気圧は地球の一%以下だ。
 火星にはまた、南北の極に、その大部分がドライアイスからなる永久氷冠がある。極冠と呼ぶ。極冠のドライアイスの二酸化炭素は、夏には完全に蒸発するので氷だけになる。極に近い緯度のところでは、地表面下に氷が存在するかもしれない。総水量は琵琶湖の一〇〇倍とも、日本海の一〇〇〇分の一ともいわれる。
 月に次いで人類が降り立つ星は火星だ。NASAは二年ごとに探査機を打ち上げ、遅くとも二〇二〇年までには人類を火星に送り届ける予定だ。NASAの描くシナリオはこうである。
 宇宙飛行士を乗せた火星探査の母船は、地球を出発して約一七〇日で火星を回る軌道に到着する。着陸点の安全が確かめられると、宇宙飛行士と、二台の五人乗り火星ローバー(探査車)を乗せた着陸船が火星表面に降下する。着陸が成功すると、半径五〇kmぐらいの範囲を四〜五日かけて調査する。ローバーの行動は火星上空を回る母船が追跡し、ローバーとの間で無線連絡が行なわれる。地球との往復だけで三四〇日かかるので、地球に戻るまでは一年近くを要する。探検隊のメンバーは世界中から募集される。
 日本でも、文部省の宇宙科学研究所が一九九八年の夏、火星探査機「プラネット−B(のぞみ)」を打ち上げた(イラスト参照)。重さ二六〇kgと小型だが、磁力計など一四個の測定器を積んでいる。九九年の一〇月に火星に到着する予定であったが、地球の引力圏を脱出するときに燃料を使いすぎたらしく、何と到着が4年後に延びてしまった。
 プラネット−Bは火星に到着すると近地点一五〇kmの楕円軌道へ入る。火星の一年にあたる二年間にわたり、火星の大気や磁気圏を調べ、気象衛星のように天気の撮影も行なう。また、太陽風が火星大気に及ぼす影響や、火星の大気から宇宙空間へ流れ出ているという酸素なども調べる。
 二一世紀は、人類が火星に降り立ち、宇宙ステーションが運用され、月面基地建造の第一歩もしるされるであろう、本格的な宇宙の世紀となるはずだ(第5章参照)。

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10.はたして火星に生物はいるか?

 一九七六年、アメリカのバイキング一号と二号が、一年近い飛行のあとで火星に到達し、人工衛星から火星表面に史上初めて着陸船を降下させ、写真/TV撮影や砂の採取などを行なった*。その分析結果を世界中は固唾をのんで見まもったが、生物の痕跡は見つからなかった。
 それから二〇年後の一九九六年一二月、バイキング以来の火星着陸探査機、マーズ・パスファインダーが安価なデルタロケットを使って打ち上げられ、翌九七年の七月四日、パラシュートを使ってみごと火星に着陸した。アメリカの独立記念日に合わせた、二一年ぶりの火星訪問だった。バイキングのように周回軌道にのることなく、直接、火星表面をめざして、自ら軟着陸を果たしたのである。
 マーズ・パスファインダーからは、惑星探査史上初の無人ローバー( 探査車〈写真参照〉)が放出され、地球からの遠隔操縦によって火星の荒れ地を走行した。パスファインダーがとらえた火星の風景とローバーの走り回る様子や、ローバーがとらえた火星表面のディテールは、インターネットによって世界中に発信され、延べ二億二〇〇〇万人がアクセスした。
 ローバーの名前はソジャーナーというが、車というより“ロボット”といったほうがよいだろう。火星にかぎらず太陽系惑星は、地球をのぞけばいずこも過酷な自然環境のところばかりである。そんな中で探査を行なうには、ロボットはうってつけだ。今後の惑星探査は、ロボットが主役になるかもしれない。
 かくのごとく惑星探査史上画期的な成果をあげたマーズ・パスファインダーであったが、残念なことに同機からの通信は一九九七年九月に途絶え、関係者の必死の努力にも関わらず回復することはなかった。九七年一一月、NASAが探査の打ち切りを宣言したとき、世界中のファンはこれを悼んだ。
 ところでNASAは、マーズ・パスファインダー打ち上げのほぼ一カ月前に、マーズ・グローバル・サーベイヤーという探査機も打ち上げている。この探査機は火星の周回軌道に乗り、天空から火星を観測する人工衛星である。地上と天空の両面から火星の秘密に迫ろうとしたわけだ。マーズ・パスファインダー軟着陸の二カ月後、火星の周回軌道に乗ったマーズ・グローバル・サーベイヤーは、さっそく、火星の内部は冷え固まっているらしいことを明らかにした。これだと、地下に水があったとしても凍結しているだろうから、生物の存在はむずかしくなる。
 だがNASAはその一方で、マーズ・パスファインダー打ち上げの四カ月前に、地球の思いがけないところから、火星生物の痕跡が見つかったというショッキングな発表も行なっている。何と、南極で見つかったというのだ。一九八四年に南極で発見された隕石「ALH84001」の組成を調べたところ、およそ一万三〇〇〇年前に火星から飛んできたものであることがわかり、さらに太古の微生物らしき痕跡のあるのが発見されたという。ただし、これに対しては疑問の声もあがっている。隕石は南極に落ちてから汚染されたというのである。隕石に付着しているアミノ酸を分析したところ、その分子は明らかに地球起源のものだったという。
 NASAは、マーズサーベイヤー98と銘打ち、一九九八年一二月に軌道船マーズ・クライミット・オービターを打ち上げた。また、翌年の一月には着陸船マーズ・ポーラ・ランダーの打ち上げにも成功。両機のコンビで火星の秘密にさらに肉薄する。着陸船は、水と生物の痕跡の見つかる可能性がもっとも高い極冠近くに降り立ち、小さなマイクロプローブを地中に打ち込む。また、マイクロホンをセットして“火星の音”をキャッチし、地球に送ってくる予定だ。

* バイキング一号は一九八二年一一月一三日、同二号は一九八〇年四月一一日に地球との交信を絶った。

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